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【Fuzzy Navel 6話】



Fuzzy Navel 6話です。




息を吸い込めば、乾いた喉が、ひゅう、と小さく音を立てた。

どこか靄がかった視界はまるで、テレビの画面を覗き込んでいるかのような。
ふわふわした現実味のない感覚を、私に与え続けていた。

どうして、こうなってしまったんだろう。
ただ、胸がきりりと痛む。


「……っ」


ぐっ、と。唇をかみ締めた。


「ねぇ、なのは」


自らがそう望んだはずなのに。
どうして、こんなにも苦しいんだろう。

涙の代わりに柔らかな笑顔が溢れ、表情を作りこんでいく。



「……、」


ぐっと白くなるまで握りこんだ指を、震える胸に押し当てる。
確かにあったんだ。昨日までは、確かに、ここにあったんだ。

触れる事だって、できていた。


ああ。

あの笑顔を想うだけで。
こんなにも壊れてしまいそうになるのに。

なのに。


「……私ね、思うんだ」





こんなにも、私は、愚かだ。











【Fuzzy Navel 6話】








先程まで暗闇に飲み込まれていた室内に、ふんわりとした香りが広がっていた。

目の前では、飴色の液体の中で、蒸らされた茶葉が踊るようにポットの中を泳いでいる。
様子を見るように蓋が開かれると、より一層濃い香りが鼻腔を擽った。

……紅茶なんて、いつ振りだろう。
最近は専ら珈琲派だから、気付けば久しく飲んでいない。

どこかぎこちなさが抜けない私とは対極に、慣れた手つきでポットが持ち上げられる。
注がれた綺麗な液体が緩やかにカップを満たしていき、その様子をじっと見つめていると、なんだかおかしそうに肩が揺れた。


「そんなに見られると、ちょっと恥ずかしいな?」


肩から流れた亜麻色の髪。
少しも変わらない、綺麗な蒼い瞳。
女性らしい、柔らかな声。

一週間程度逢わなかったぐらいでは、彼女の何かが変わる訳ではない。
けれどこうしてはっきりと意識してしまった私には、それらはとても胸をかき乱した。

無邪気な笑みでさえ、苦しくて。


「はい、どうぞ?」
「……ん、ありがとう」


俯けば、円い液体の中に私の顔が移りこむ。
それは波紋を描きながら歪み、やがて、ゆっくりと底へと溶け込んでいった。


「……ん、おいしい」


飲みなれない紅茶は僅かな渋みを感じたけれど、それでも仕事で疲れていた胃は温まっていく。
ありがとう。小さく告げれば、目の前の瞳が嬉しそうに細められた。

その笑顔にまた胸がざわめいて。視線を逸らす。

いつもなら間近にある携帯電話は、今は遠いダイニングテーブルの上だ。
鈍く光を拾い上げた四角いフォルムは、目を凝らすことでようやく確認できる。


「え……っと」


変換されない会話は、久しぶりすぎて。

何を話したらおかしくないだろうか。
必死に話題を探し、それを噛み砕きながら手探りで言葉に乗せていく。


「今日は手伝ってくれてありがとう。おかげで凄く助かったよ」
「ううん、どういたしまして。久しぶりにお店の方に来たけど、随分とお客さん、増えたんだね?」


なのはが笑いながら首を横に振る。

そう。本当なら今日も、逢えないはずだった。
けれど、……きっとはやてから聞いたんだろう。今日に限ってなんだか店が忙しくなってしまい、それを知ったなのはは、時間を作って駆けつけてくれた。

日にちを跨ぐ時刻……それも学校の後だ。どれだけ大変な思いをさせてしまったのだろう。
けれどそんなことは一言も言わず、なのははもくもくとお店の手伝いをしてくれた。


「……ごめんね、忙しいのに」
「ううん、大丈夫!それに、フェイトちゃんやはやてちゃんにも逢いたかったから」




私も、ずっと逢いたかったよ。

きっと、君以上に。





「はやて、先週は家に来てたんだよ」
「…………そっか。すれ違い、だったんだね」


二人とも仲良しでいいなぁ。なんて。笑う。
だから、そうなのかなって、必死に笑い返して。

続けることのない言葉を、飲み込んだ。


窓越しの空は墨を流し込んだように真っ黒で、珍しく星一つ見えない。
雲間に隠れる月はビル群の中へと沈みかけていて、そう遠くない間に太陽と変わるのだろうと思った。

昼夜逆転気味な私には、それもいつものことなのだけれど。
なのはは眠そうに瞳を擦っていて、今にも寝こけてしまいそうだ。
そういえば心なしか身体が揺らいでいるようにも見える。

反射的に肩へと伸ばした指を、その身体に触れる前に、握りしめて。
向かいにいるなのはの気付かれないように、深呼吸。


「……なのは。明日は?」
「明日は……休講、だよ」


それならと、いつものようにロフトへと促す。

暫く使われることのなかった空間は、それでもいつも綺麗であろうと心がけてはいた。
やっぱりどこか申し訳なさそうななのはに厚手の毛布をかけ、お休みなさいの挨拶を交わす。

自身も寝床に入ろうと、ロフトから下へと続く階段に足を伸ばした。


「……わっ、」


瞬間、がくん、と。踏み板に届かなかった足が宙を蹴る。
バランスを崩しそうになって前のめりになると、間近に蒼が広がった。


「……は」


柔らかな吐息。

少しでも動けば、容易に重ねることが出来る唇の距離。
弾かれるように身体を起こすと、ごめんね、と小さく言葉が帰る。


「大丈夫、だけ、ど」


やり場に困った視線を彷徨わせた。裾を掴んだ指が暗闇に映り込む。
その色合いは月明かりのせいかいつもより白さを増し、とても頼りなさ気に見えた。


「ど……どうかした?」
「えっと、ね」


なのはにしては珍しく言い澱んだ言葉。
今日は、寒いから。そう、なのはは告げて。だから、と。


「……一緒に寝よう?」


真っ直ぐに向けられた蒼い瞳が、揺れる。

混じりけのない、ただのじゃれあいの言葉だ。わかってる。
だからこそ、こんな不純な想いを持つ私は、断らなければいけなかった。

だめだよ。――そう言わなければいけなかったのに。
酔いと眠気と何かが交じり合った思考では、そんな単語なんて思い浮かぶはずがなくて。


違う。


……本当は、分かってた。
でも拒否なんか、出来るはずなかったんだ。

もう一人の私が叫ぶ。



だって、


もう、こんなこと、ないかも知れない。










「……うん、なのはが、いいなら」


短く告げた。他意のない言葉を装いながらも、それは何か別の意図を含む責任転嫁じみていて。
結局はそんな勇気など微塵もないくせに、けれどそればかりを望んでいるのかと思い知らされて。

どこまで自分は卑怯なのだろう。

そう、思った。



捲り上げられた毛布に身体を滑り込ませると、まだ体温の移りこんでいない布地が、妙に肌に染みた。
それほど広くない布団の中、なるべく身体が触れないように気をつけながら横たわる。
緊張で硬くなった身体は、指先を少し動かすだけでも小さな音を立てて軋みそうで気が気ではない。

誰かと一緒に寝るのなんてもう遠い記憶の端にしかなくて。
私のものではない息遣いが間近に聞こえると、本当にこれは夢なんじゃないかと思った。




どれだけの時間が過ぎたのだろう?


「なのは、狭くない?」


やっとの事でかけた言葉に返事はなく、ぎこちなく振り向くと薄く閉じられた瞼が蒼の瞳を隠していた。

もう……寝ちゃった、のかな?


「なのは」


再度声をかけてみる。
相変わらずの深い息遣いに、なのはが寝入ったことを知らされて。それでようやく息をつけた。

やっぱりなのはは、眠れちゃうんだね。
そんな、至極当然の考えを振り払う。

どうしようかと戸惑って。湧き上がる想いに押され、白い頬に触れてみる。
しっとりとした張りが指から伝わる。温かくて、柔らかい。
恐る恐る肩に触れて。緩やかに上下するそれを、起こさないようにそっと引き寄せる。

甘い香りが、鼻腔をくすぐった。

もう一年が経つというのに、こんなにもまじまじとなのはの顔を見たのは初めてだ。
抱き締めるというにはあまりにぎこちないその抱擁は、それでも嫌という私に知らしめた。

血色のよい頬と、すっきりと通った鼻筋。
形のよい眉と、そして瞼にほんのりと影を落とす長い睫毛。


(やっぱり、……綺麗だな)


何度見たって、何度も思う。
どれだけの人口がいたってきっと、なのはよりも可愛い子はいない。

どうして好きになったんだろう。
そう考えれば、それらしい理由なんていくつもある。

考えるのがバカらしくなるくらい、沢山ある。


この想いには色々な障害があって、成就には限りなく程遠くって。
それでも、そんなの関係ないくらい、なのはが愛おしい。

……誰よりも、何よりも。


そう。私は。




「…………っ、」


ああ、いっそ。

このまま強くかき抱いて、腕の中に包んでしまおうか。
誰かに会いたいと泣く声を聞きながら、それをかき消すように名を呼び続けてしまおうか。

これ程までに愛おしいのだと。
その身に刻んで、分からせてしまおうか。

愛してるのだと。


そうしたら、君は。
この想いを、……ちゃんと、受け止めてくれる?


「……あ、……っ」


大好きだよ。――あの時の言葉。
私、好きな人が、いるんです。――いつか誰かとお店で話していた、あの会話。

それが私であれば、何度思ったことだろう。
いや、もしかしたら。……そう思うことはあった。


でも。

なのはが好きな食べもの、花、テレビ番組。
そんな些細なことは知ることが出来ても、肝心の、本当に知りたいことだけは分からない。

まだ、好きなの?
私のことは、ただの友達としか思ってないの?

あのね、私は違うんだよ?
まだ例え君があの人の事好きなままでも、こんなにも大好きなんだよ?


「……だから、」



だから?


続けそうになった言葉に、汗が噴出した。
だから、私は、何を求めているの?


(……ああ、どうしよう)


近すぎるんだ。私たちは。
だから、このままでは、――私は。

零れ落ちそうになる涙を堪えて、華奢な肩におでこを押し付ける。
泣くもんか。……絶対に、泣くもんか。


「私は、好きだよ」


乾いた嗚咽をかみ締めて。
その身に刻み込むように、温もりを求めた。

もう決して、忘れないように。










寝起きはいいとは、いえなかった。
とにかく頭がガンガンして、なんだか気持ち悪ささえ覚える。

薄目を開くと隣にいるはずの姿はなく、乱れさえもないまま綺麗に布地は保たれていた。
一つ息を零して起き上がる。気だるい足で階下へと降りると、そこには昨日とまるで同じ様子のなのはがいた。


「おはよう」
「……おはよう」


少し眠い目を擦り、それでも笑顔が向けられる。
昨日の今日とあってか目が合わせ辛く、俯きがちに返事を返す。


「……? フェイトちゃん??」
「ねぇ、なのは」


つきり、と。また、胸が痛んだ。
伸ばされた手のひらが、戸惑うように腕に触れて。

その温度が、鮮明に呼び戻す。
狂おしいほどの激情を孕んだ想いさえも。


「私ね、……思うんだ」


溢れた笑顔を貼り付けて。笑う。
いつか私が、一生残らない傷を君につける前に。


「君の為にも、」




もう、ここには、来ない方がいいよ。







⇒【Fuzzy Navel 7話へ】

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