スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【Fuzzy Navel 5話】



Fuzzy Navel 5話です。



スプリングが弱くなり始めたベッドに身体を預けながら、ぼんやりと四角い明かりを見つめた。
どこか自虐めいた気持ちで、そのボタンを押す。

一体何度目だろう。分からない。

接続を知らせる円が、くるくると回って。
明るくなった画面に表示された数値は、やはり0のままだった。


はぁ。と。ため息を一つ。

もしこれが機械ではなく人の手によるものだったら、きっと、もう諦めろと一声かけられるんだろうな。
いや、それとも、今まで散々放っておいたくせにと小言の1つでも言われてしまうかも知れない。

段々とその機能にも手にも馴染んできた携帯電話は、何を伝えるでもなく黙り込んだままだ。
変化の訪れない画面を閉じて、サイドボードに置き直す。


見上げた空はいつの間にか白んでいて、もう一度ため息を吐き出し寝返りをうった。
今日も夕方から仕事だ。わかってる。


目を瞑る。

真っ暗になった視界の中で、銀色の光が浮かび上がった。



ああ、またか。

見たくなくて視界を閉ざすのに、どうして。


『大好きだよ』


欠落した感情が紡ぎだした想いは棘だらけの歪な形で、それを自覚する度にじくじくとした痛みが現れる。
腫れて化膿したそこが熱を持ち、沸騰した想いが泡のように浮かんでは消え、消えては浮かんでを繰り返した。

欲しがるから、苦しくて。分っているからこそ、悲しくて。
向けられた笑顔は、あの言葉は、手の届かない夢のようなものなんだ、と。

そう――わかってるのに。


乾ききってしまった心が焦げ付いて、苦い何かが体中を覆い奥底に張り付いていく。

噛み締めて、繰り返す。
言い聞かせるように、文字の羅列を何度も繰り返す。


『大好きだよ』


私ではない、誰か。


瞑っていた瞼を、更にきつく引き結んだ。



なのはに逢いたい。
きっと、明日も、逢えない。







【Fuzzy Navel 5話】









「フェイトちゃん、どうしたん?」


久しぶりに会った親友に投げかけられたのは、そんな言葉だった。
相変わらずはやての切り出しは唐突だ。それでいて、もっとも大事な主語がない。

閉店作業をしていた手を止め、言葉の続きを待つ。
そんな私を他所に、はやてはグラス半分ほど減ったビールに口をつけた。
どうやら、それ以上話すことはない。ということらしい。


「どうして、そんなこと聞くの?」


意図が伺えずに訝し交じりの視線を返すと、そんな顔をしたいのはこっちだと眉が顰められた。
一体私がどんな顔をしているというのだろう。

私の視線をうっとおしそうに受け流したはやては、すっかり空になったグラスに指を滑らせた。
着いた結露が雫となって、妙な斑模様が生まれていく。

その様子を眺めていれば、


「なのはちゃんと、なにかあったん?」
「……っ、」


静かな、ともすれば独り言のようなその言葉に、心臓が跳ね上がった。
どうして急に。――そんな陳腐な疑問よりも、なのはの名前に。

言ってしまえば楽になるだろうか。
何もかも全て、嘆いてしまえば何かが変わるんだろうか。

いや違う。



グラスを下げて、明かりを消す。
遮るようにシャッターを閉めると、はやては相変わらず私の後ろに立っていた。

はやては、答えを待っているんだ。

それは分かったけれど。
私にだって、答えられるような言葉は持っていなくて。


「すっかり暗くなっちゃったね。……はやて、帰れる?」


返事は、なかった。


「……はや、て?」


からからと笑う、いつものような賑やかな表情はそこになかった。
心配そうな、それでいて、睨むような。そんな、初めて見る顔だった。


「フェイトちゃん、逃げたらあかんよ」


なのはのものとは全く違うはずなのに、けれどどこか同じ色を灯したその青に、心が揺れる。
その瞳を見つめていると、意識しないうちに口角が上がった。

へらり。

自分でもわかる笑顔だった。


「逃げてなんか、ないよ。私、はやてから逃げたこと、ないでしょう?」


促すように、笑顔のまま、静かに答える。それでもはやては、何も言わなかった。

何も言わないまま、そっと両腕が伸ばされる。
包み込んだ手のひらは小さく、それでも冷え切った頬にはとても温かく感じた。

けれど。


「……っ!」


ぎゅ、っと思い切り抓られた。
容赦ない痛みに、眉を顰める。


「その薄ら笑い、気持ち悪いからやめた方がええわ」


声の合間に見え隠れする憤怒の色に、造っていた表情が消える。
俯けていた視線を上げると、はやてはこちらを見つめたままだった。

続く言葉が見当たらず、震える唇で空気をかみ締める。

頭1つ半低い背。肩口で切りそろえられた髪は、街灯の光を浴びて幾分明るい色合いで。
それはどこかで見たことがあるもののようで、そうと思えば苦笑を零しざるを得なかった。

ああ。
こんな時でさえ、なのはを重ねてしまう。


「……っ!?」


罪悪感と共に反らした視線の先には、ぽつぽつと光が落とされた道。
その1つ、すっかり小さくなりきった円に、亜麻色が見えて。

まさか。こんな時間だ。なのはの訳がない。


でも、――なのはだったら?


そう思ったら、いてもたってもいられなくて。
けれど駆け辿り着いた先には、やはりなのはの姿はなく、ただ暗い道が伸びているだけだった。

じくり、と。また、痛みが溢れ出て。


「……フェイトちゃん」
「ごめん、気のせいだったみたい」


力なく笑う。
自分でも、もう、自分がコントロールできなくなり始めていた。








座り込んだソファーは妙に柔らかく、身体までずぶずぶとのめり込んでしまう感覚に陥る。
そんなまさか。苦笑を零し手元にあった缶を仰げば、視界の向こうで栗色の髪が揺れた。

はやてと二人きりで飲むのは久しぶりで、
けれど、記憶にあったどれよりも今日の空気は重かった。


「最近、なのはちゃんとはどうなん?」


痺れを切らしたようにはやてが告げた。
どう答えたらいいかわからず、何も変わらないよ、とだけ返す。

違う。

短い否定の言葉。
私が聞きたいのはそんなことじゃない。それが、剣呑とした瞳の奥に覗く。

じくり、と。痛んで。
零れ落ちないように、必死で抱え込む。





「……なのはのことは、好きだよ。でも、それは友達としてだ」


言葉にしてしまったら、取り返しがつかなくなることが分かっていたから。
自分で吐き出した言葉が耳に返り、それが更なる痛みを呼んだ。


「…………なぁ」


静寂を破ったのは、小さなため息。それに金属音が混じる。
カシカシとプルタブを弾く指先。それは、はやての癖だった。


「フェイトちゃんがそれでええなら、とやかくは言わん」


けど、な。

向けられた視線の先には、いつから手元に置くようになった携帯電話。
それを指差して、


「お守りみたいやな」


何が。そんなことは、言わずとも。はやての言葉の意味は分かっていた。
前までならあってもなくても変わらなかったそれを、肌身離さず持ち歩くようになったのは。


「連絡、途切れることが怖いんか?」


ああ、どうして、この親友は。

ぐっと唇を噛んだ。
溢れそうになる涙を耐える。


「私には。……これしか、なのはと繋がれる術がないんだ」


例え、直筆ではない文字でも。
例え、深い意味を含んでいなくとも。


「これしか。もう。私には、ない」


例え、このまま来てくれなくなるんじゃないかという恐怖を抱えても。
それでも、なのはが私にくれるものだから。


「……好きなら、伝えればええだけの話やろ?」


ぽつり。呟くようにはやてが零した。
じりじりとした苦いものが、胸の内を焼いていく。


違うよ、はやて。
そんなに簡単な話じゃ、ない。


「……なのは、ずっと指輪、着けたままなんだ」


脈略がなかったのか、青い瞳が開かれて。
やがて思い出したのだろう、ああ、と。短く頷いた。


「それって、まだ、くれた人のことが忘れられないってことでしょう?」


『大好きだよ』

甘い言葉と声を思い出す。
それに触れてしまったからこそ、分かるんだ。

なのはが、どれだけその人の事が好きなのか。


「あんなに、……好きだから。迷わせたく、ない」


いや、迷ってくれるならいいほうだ。
友人から、思ってもみなかった愛を告げられるんだ。
断ろう。そう決めて告げられるごめんなさいは、優しいなのはの胸をどれほど痛ますのだろう。


「だから私は、絶対に、言わない」


知らなければと思う反面、知ってしまったからこそなのはの意志を潰さないで済んだとも思った。
どちらがよかったのか、いまだ、私にはわからない。


「……それ、確かな情報なん?」
「聞けないよ。……そんな分かりきったこと」


ずるずるとクッションに身体を預ける。


「本気なんやろ? 本気で好きなんやろ?」
「…………、」


埋めたクッションには微かになのはの残り香がして、我慢していた涙が溢れてしまいそうになる。
頷くことも出来ず、指が真っ白になるまで、それを握りしめた。

私を見下ろしたはやては、困ったように笑った。


「なぁ、フェイトちゃん。私な?……フェイトちゃんが女の子を泣かせてるとこ、今まで散々見てきたけど、」
「泣かせたって…………」


人聞きの悪いことを言う。
けれど反論を聞く耳さえ持たず、はやてが続けた。


「でもな? こんな風になってるのは、初めてやろ?」


だから、はっきりさせたほうがいい。向けられた言葉は正論で、分かってて。
言わないと後悔することも、言って後悔することも全部分かってて。

だけど。


「…………」



初めは恋愛感情なんて、知らなかった。
自分はそんなものに一生縁なんて無いんだって思ってた。


焼ききれそうな心なんて、全然知らなくて。
今だってこれがそうなのかさえわからないまま、ここまで来てしまって。

甘酸っぱい片想いなんて、そんな夢見る年頃ではないから。
理性と理屈を身に纏い、心を潰すことさえ覚えてしまった今では、もう。



それを確かめる術さえ、赦されない。










⇒【Fuzzy Navel 6話へ】

スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

WEB拍手
感想やリクエストなど頂けたら嬉しいですw  返信不要の方は頭に×をお願いします
プロフィール

汐薙

Author:汐薙
初めまして、汐薙と申します。
魔法少女リリカルなのはで活動中。

主な取り扱いカップリングは
フェイト×なのは
はやて×なのは です。

リンクフリーですので、貼るも剥がすもご自由にどうぞw
一報を頂けると管理人が喜びますw

【ご注意下さい】
当サイトにて掲載されているイラスト
または、テキストの無断転載・使用は禁止とさせて頂いております

カレンダー
06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
カテゴリー
メールフォーム
何かありましたらどうぞ。

名前:
メール:
件名:
本文:

捕捉サイト様
イラストサイト様
SSサイト様
お世話になります
最近のコメント
FC2カウンター
その他
RSSフィード
By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。