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風花 ~3話~



風花の3話目です。長めなので、読み辛かったら申し訳ありません;

ちょっと急かした感が否めませんが、がしがし進めたいと思います。
全体的に暗い話で本当にすみません(><)


しかし、今回は一体、何話完結になるんだろう……?







力を持っていたはずだった。
このちっぽけな身には余るほどの力を。あの人から貰った。

――なのに。



≪はやて、お前は、こうはなるなよ≫


覚えているのは、掠れた声と、言葉だけ。

優しい手に撫でられたことだって何度もあるはずなのに。
けれどその記憶は曖昧模糊なものとなり、その時どんな表情をしていたのかさえ、今では思い出せない。
笑った顔、怒った顔、年甲斐もなくはしゃいだ顔。私は、傍でたくさん見てきたはずなのに。


ああ――どうして。


私より何倍も大きくて、そして骨ばった優しい手。それが今、姿かたちを見せない位にやせ細って、震えていて。
こんな私に屈託なくほほ笑んでくれて、仕事を教えてくれて、そして。生き方を教えてくれた人。

誰よりも大切で、なのに。
助けられなかった。

あの人も――それから。


≪  ≫


遠くで、泣き声が聞こえてくる。
その声に誘われるように、視界に、ざりっと。ノイズが走った。


鼻先を燻る煙の匂いと、それから。
瞬間。えづいた喉が震えた。

――これは夢だ。夢なんだ。

そこまでわかっているのに、なのにどうして意思は自由になってくれないのだろう。
いまここで目が覚めてしまえば、もうこれ以上、見ずに済むのに。


(嫌や。もう……嫌、や)


そんな私の願いもよそに、歪んだ景色が転換していく。

予想道理、次の瞬間に居たのは、あの埃くさい広場だった。
随分と成長したはずの私も。相変わらず幼いままだった。

今まで何度見せられたことだろう。この光景を。


「―――――ッ!!!」


それでも声を張り上げる。
数多の罵声にかき消された、叫び。

降り続く豪雨のように浴びせられた嘲りに、けれども負けじと喉が切れるまで叫んだ私に。
身の自由を奪われたあの子は、やっぱりいつものように笑っていた。


≪大丈夫です、――――≫


長い髪が、夜天の下に光を弾いてたなびく。
それに向かって手を伸ばす。精一杯に。


「大丈夫じゃないやろ!なんでなん!?なんで、」


嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。
違うんだ。あの人も、あの子も、みんな、

大好きなのに。血のつながりはなくても、確かに家族だったのに。
愛して、た、のに。

景色が、揺らぐ。
暗転していく視界に、自身の吐息すら溶け込んで。

みんな。そうだね。
うなづくような、声が聞こえた。


≪――と出会わなければ、幸せになれたんだよね?≫


それは。真理というべきもので。
けれど責め立てるというには、あまりに無邪気な声だった。






【~参~】






やっとのことで解放されたのか、ようやく言うことの聞くようになった瞳を開く。
弾きだされたそこはあの場所ではなく、いつもの作業場だった。天井に伸ばしたままの開いた掌も、大きい。
左手を見るとあの頃はなかった蝶が行く当てもなく肌の上に羽を広げたままで、ようやくここが現実なのだと実感する。

帰ってきたのか、帰されてしまったのか。

現実味を帯びすぎた夢のせいで、疑心暗鬼に陥ったままなのだけれど。

いつもより薄暗い部屋のせいで、自分の輪郭さえ朧で。しっかりと捉えることができない。
時計の秒針以外の音に窓を覗けば、いつの間にか降り出した豪雨が、強風を伴って軒先を叩いていた。

そうか、この音が、あの罵声を呼び起こさせたのか。


人間の記憶とは、大した曖昧さだ。

苦笑をこぼしながら背を起こす。あふれ出た汗がじっとりと背中を濡らし、気持ちが悪い。
まるで体中の水分が抜けてしまったかのようで、喉が焼けついたように渇いていた。


「……は、」


鈍く痛む頭をかかえ、崩れた顔を膝に埋めた。
肺が空になるくらい息を吐き出して、頭の中を真っ白にする。

今だけは、余計なことを考えたくなかった。


手の震えが止まると、ようやく本当の息が吐けたようで。
作業台に置いてあったピン止めで、髪を止めてよろよろと立ち上がった。


「今、何時やろ……」


夕飯の材料、買いに行かなければならない。
今日こそ、あの子に、ちゃんと食べてもらわなくちゃ。


ずるずると重い体を引きずって戸を開けると、とん、と柔らかな感触にぶつかった。
まさか。視線をずらすと、そこにいたのは彼女だった。

今まで彼女が作業場に寄り付くことはなかった。
いや、それよりも、私に寄り付くことすらしなかった。なのに。


「……どう、したん?」


怖がらせないように、震える胸の内を抑えて精一杯優しい声で問いかける。
彼女は相変わらず無反応なままで、光の宿らない瞳を向けた。いや、向けたというには語弊があるのか。
焦点の合わない瞳を、少しだけ私のいるほうに見せた。

じくり。痛んだ胸で、笑いかける。


「……お姉さん、少し買い物に行こうと思うんやけど、君も行く?」


いつものように声をかける。大きな独り言を、彼女に。
しかし、やはり反応はない。

当たり前やな、とどうしようもない納得を自分にして、財布を取るために居間に向かう。
すると、立ち竦んでいた彼女が、私の後を追うように拙い足取りで廊下を歩きだした。
たまたま行く方向が一緒なのだろうか。そっと様子を窺いみると、きちんと玄関のところまでついてくる。
下駄箱から靴を取り出したところを見ると、どうやら今日はついてきてくれるらしい。

何か心変わりがあったのだろうか。
彼女の急な変化に戸惑いつつも、やっと見せてくれた反応に、冷めていたはずの胸が一気に熱くなった。


「……、」


手を伸ばそうかと考えて。けれど、それをきつく握る。
そうしている内に視界の端ぎりぎりで開いた傘に安堵の息を零し、自身も傘を開く。

大雨のせいか、町はしんと静まり返っていた。
すれ違う人の数は片手でも数えられるくらいで、もちろん子供の姿はない。

雨粒が、誰の足跡ものこさない舗装された道路を、静かに叩いていく。
移りこんだ表情を踏みしめるように水たまりを弾くと、後を追いかけてくるようだった音が止まった。


「……?」


振り返れば、何かを見つめるようにして視線を定めた彼女の姿。
何かあったのだろうか。距離を取りつつそっと近寄れば、この時間にしては珍しく人だかりが見えた。
先ほどまでいなかった人々が、まるでその一角に引き寄せられたようだ。

……何だろう?

お祭りのような賑やかな喧騒はあるものの、決して楽しそうな雰囲気ではない。むしろ逆だ。
まるで戦場特有のようなささくれ立った特有の殺気を感じて、ぞわりと悪寒が背を走る。
確かめるように背伸びすると、ばさりと音を立て、目の前で傘が落ちた。


「あ、……ちょ、!」


濡れるのも構わず駆け出した彼女を追い、駆け出す。
人ごみの中に潜るには傘が邪魔で、同じように投げ捨てて小さな背を探した。


「なんや、これ……っ」


火薬の匂いと、爆竹を大きくしたような破裂音。暗い路地裏を一瞬覆い照らした、鈍色の閃光。
人工的ではない明らかな魔力反応に、もうかなぐり捨てたはずの識別能力が自動展開する。
ランクはD+。決して高ランクではないにしろ、こんな廃村寸前の場所に魔導師がいることがショックだった。

鉱山も農業も工業も特に発達したものがなく、目をつけられることはないだろうと思っていたのに。
けれどもし別の何かを狙って、国の偵察隊が来ているとしたら、決してその一人だけとは限らない。

この時代、魔力を持たない人間は巻き込まれることが多い故の厭戦思想が強い。
だから、戦の元となる魔導師を快く思っている人間はほとんどいなかった。
私自身その経験があり、嫌というほどそれを知っている。特にこの村はそれが顕著だ。魔導師はみたことがない。
隠れているのだろう。だからこそ私も姿を誤魔化しやすかった。表面上いないということは、安心を与えた。

けれどそれはひっくり返せば、もし万が一のことがあっても、対抗する術を持たないということだ。
何かが起こった際には形成は一気に逆転し、あっという間に制圧されてしまうだろう。

どこや……どこに行ったんや!

目の前で見せられた凡常ではない出来事に、集まった人間が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
思い思いに逃げ惑う彼らにぶつかる様にしながら、それでも必死に彼女を探した。


「なんだお前は!!どけ!!!」


突然の罵声の先に見えたのは、小さな影。声が向けられた先は、探していた彼女だった。
何かを守る様にして覆いかぶさる仕草。けれどそれを善しとせず、小さな体に向かって大人が声を張り上げる。


「お前もそいつの仲間なのか!」
「……そうだって言ったら、どうするんですか?」


それは、彼女の、初めて聞いた声だった。幼いながらも芯の通った、強い声だった。
蒼い瞳を、彼女はただ真っ直ぐに向けていた。

年不相応の強さを瞳に見たのか、恐れ震えた腕で道端にあった石を拾い上げる。
だめだ。――もう少し。まだ、距離が足らない。


「そうだとしても、違うとしても、そいつを庇うならお前も同罪だ!!」
「止めや!まだ小さい子なんよ!!」


張り上げた声を無視し、小さな体に向かい無遠慮に石が投げつけられる。
その姿を見れば勇気づけられたのか、一人、また一人と後に続いた。

一つが彼女の額に当たり、切れて血がにじむ。
石つぶてを潜ってその身をかき抱くと、勇猛さの奥で小さな体が震えていた。


「ごめんな。怖かったよな……ごめんな?」


罵声と痛みに塗れ、思ったのは怒りではなくやりきれない悲しさだった。

小さな彼女が守っていたのは、大人でも兵士でもない、子供だった。
きっと、ふとした拍子に抑えてあった魔力を解放してしまったのだろう。

今までの人達が打って変わって弾圧する様子に声も出せず、ただ涙で顔を濡らしていた。
ごめんなさい。ごめんなさい。舌足らずな、まだ幼さのにじむ言葉。


「大丈夫。大丈夫や。君は、なんも悪くない」


どうしてこんなことをするのか。できるのか。唇に歯を立て、唸りを上げる。
彼女とその子供を包むように結界を張り、今だ罵声を上げ石に暴力を乗せ続ける矮小な大人を睨みつけた。
がつん。痛みにはじけた右腕を、それでも振り上げて。


「もう、ええ加減にせぇ」


びりびりと耳鳴りにも似た高音が辺りを包み込み、光がはじけていく。
久しぶりに身を包んだ防護服を目の前に、喉に空気を詰められたように周りの声が黙り込んだ。


「見てみぃ。まだほんの子供やないか。……そんな子を寄って集っていじめて、何が楽しいんよ」
「ば……バカなことをいうな!そいつは魔導師だぞ!いつかは戦場に出てるんだ!!いま捕まえて何が悪い!」


捕まえて。とは。また可愛い言い方をする。バカらしさに笑いが漏れた。
恐怖に塗れた建前の先にあるのは、自分可愛さの気持ちだけだ。

未知のものに畏怖する。それは防衛本能としては至極当たり前で、当然のことだ。
それでも。


「バカなことを言ってるんは、あんたの口や」


ぐっと、手を握り締める。本当なら怒りに任せて大きいものを一発放ってしまいたいくらいだったが、
ここで魔力を使えば、今度こそ本当に魔導師に対する恐怖は確固たるものになってしまうだろう。
やっと止んだ石つぶてを前に、防護服を解除して笑う。


「そうならんように見守るんは、それこそ大人の……家族の役目やろ」


黙りこくった大人達の一人に、子供はしきりに視線を向けていた。
愛情が混じるその表情の先にいたのは、その子供をそのまま大人にしたような顔をした女性だった。

どうしていいのかわからず、ただ戸惑うだけで。
もつれた足で近寄り、その子供が伸ばした手を恐れたのか、半身が引かれる。

悲しそうな表情を浮かべて、その子は、笑って。


「あんた、お母さん?」
「…………は、――ッ!!」


途切れた返事に、頬を叩く。


「あんたが見捨てて、どうするんよ」


再度手を振り上げると、それをかばうように子供が女性にしがみついた。
泣き顔がこちらに向けられる。きっ、と。震えた唇で、睨みつけたまま、


「やだ……だめ。お母さんを、いじめないで!」
「……っ、ごめんね……ごめん……ごめん、なさい」


それを見て。お母さんはその子を抱きしめて、ただ、泣いた。
今までずっと悩んでいたんだろう。何かが切れたように、泣き続けた。
お母さんが泣いたことに緊張の糸が切れたのか、子供もまた、縋るように声をあげて泣いた。


「行こうか」
「……」


私の隣にいた彼女は、何かを考え込むように、暫くその姿を見つめていた。




 ◇




買い物をしようと表通りに出ると、向けられたのは奇異な視線ばかりだった。
一連の騒ぎを起こしたせいだろう。

まぁさして気にすることもないのだけれど、このままだと仕事すらまともにこなくなるだろう。
しまったと頭を抱える。食い扶持が減ってしまっては、ここで生活していくことすら困難だ。


「……あかんなぁ」


さっきは勢いだけであんなことをしてしまったけれど、不正解だったかもしれない。
自分一人ならまだしも。幼い彼女までを巻き込む形にしてしまった。

視線を少し下に向ける。黙りこくったままの彼女。

しゃがみこんで、雨に濡れた前髪を掻き分ける。柔らかな亜麻色の髪。
滴る雨粒を絞ると、垣間見えた真っ白な額には痛々しい傷が残っている。
それに掠らない様に細心の注意を払い、ポケットに一つだけあった絆創膏を貼った。


「……ごめんな。下手に巻き込んで。ホンマ……私といると、悪いこと、ばっかやな」


助けたいのに。守りたいのに。
いつも私は、傷つける。

きっと私が隣にいるよりは、いないほうが彼女の為になるのかもしれない。
ぎちり。握りしめた掌に食い込んだ爪よりも、その言葉に痛みが伴う。


≪出会わなければ、幸せになれたんだよね?≫


夢に見た言葉が、耳の奥で聞こえた。

流れ出した血が目に染みて、痛い。
少しだけ瞼を下げると、小さな指がそれを拭うようにそっと触れた。


「あなたは、悪く、ないです」


小さな声。雨に濡れた瞳が、僅かに揺らいだ。
いつもの人形のようではない、ちゃんとした、人間らしい悲しそうな表情。


「悪く、ないです」


小さな手で抱えるには私の頬は大きく、けれど抱きしめられた柔らかな温度に涙がにじんだ。

私なんかが触れてもいいのだろうか。逡巡を繰り返し、おそるおそる小さな手を包み込む。
彼女は嫌がることなく、それを受け入れてくれた。


「助けてくれて、ありがとう」


彼女の仇でもある、私に。
許せないはずの、私、なんかに。

小さな体を抱きしめる。
今までどうして迷っていたのか、その理由を忘れてしまうくらいに、強く。


「君のこと、私が守る。……絶対、守るから」


それは償いという名の偽善でしかなくて。
いつか砕かれてしまう、形だけの偽りだとしても。

いつか大きくなった君が、大切な誰かの隣で、幸せそうに笑えるために。
それを見守る為に、今ここにある私のすべてを、君に捧げよう。


「せやから……家族に、なろう?」


震えた声に、彼女は静かにうなずいた。
初めて見た笑顔はぎこちなく、けれども確かに笑ってくれた。



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>ほのか さん

大分更新が止まっていて申し訳ありませんでした;
そういって頂けると凄く嬉しいですー!!ありがとうございますwww
今度こそとめないように書いていきたい所存ですので、もしよろしければお付き合い頂ければ光栄ですw
WEB拍手
感想やリクエストなど頂けたら嬉しいですw  返信不要の方は頭に×をお願いします
プロフィール

汐薙

Author:汐薙
初めまして、汐薙と申します。
魔法少女リリカルなのはで活動中。

主な取り扱いカップリングは
フェイト×なのは
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