スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Fuzzy Navel 2話



お会計を終え、本日最後のお客さんとなった彼女を送り出す為ドアを開く。

拓けた視界の街明かりは消え、先ほどまでは賑やかだったであろう痕跡すら残されていなかった。
ぽつぽつと小さな光を放つ街灯は頼りなく、辺りを包み込んでいた宵闇は音さえも飲み込んでいる。

ああ、もうすぐ、冬が来る。


「……少し、冷えてきましたね」
「そうですね」


店の中が温かすぎたせいだろか。
低い位置にあるなだらかな肩が、ぶるり、と。一つ震えた。

闇を見据えた蒼に、先ほどまでの光は見えなくて。


(寂しい)


誰が。だろう。

でも、その時確かに、そう思ったんだ。






【Fuzzy Navel 2話】





「ごちそうさまでした。おいしかったです」


頭を下げ、にっこりと彼女が笑った。
肩はまだ、こんなにも震えたままなのに。


「待って」



閉まるドアを押さえ、引きとめる。
すると、彼女はびっくりしたように眼を丸めた。


「えっと……もう、暗いですから。お1人での帰宅は危ないですよ」


ご迷惑でなければ、私に送らせて下さい。
その言葉に、ちょっと困ったような笑みが返された。


「ありがとうございます。でも、すぐ近くにネットカフェもありますし。大丈夫です」


返されたその言葉に、僅かな引っかかりを覚える。
それは、この眼を惹くような容姿と違っていたからかも知れない。


(……もしかしたら、そうなんだろうな)


困ったもので、妙なところで観察眼が働いてしまう。


告げるこの言葉だって。
きっと、全てが、今のこの子にとっては迷惑なものなのに。

前までの私なら、きっと放っていた。この子は、そうして欲しいんだと信じられたから。
でも、今は。そんなこと、出来なかった。



「女の子がそんな所に1人でいたら、危ないよ」


傷つけないように、柔らかな言葉で包んで。
それでもきっと、どうしたって傷つける。


だって。



彼女が必死で隠したい心を、暴こうとしているから。


それでも、どうしても口を出さずにはいられなかった。



「え、っと……その、」
「うん?」


言い澱んだ言葉が、宙を彷徨う。
白く濁った息に乗って、ふわふわと。


「帰りたく、ないんです」


1人でいると、考えすぎてしまうから。


困ったような笑顔と、滲んだ言葉。

せめて、頬を伝う涙を見ないように。ドアを閉じる真似をして、彼女の背後に回った。
僅かに空いていた隙間が埋まり、吹き込んでいた寒風が和らぐ。


(いいの、かな)


どうしようか迷って触れた手のひらは僅かに紅く、そして冷たかった。
冷された指輪の硬質な感覚が、異物を拒むようにじんわりと私に冷たさを伝えて。

それに気づかぬ振りをして、小さな迷子のような手を引いた。


「私、このお店の二階に住んでるんです。
 ……狭いだけの部屋ですが、寒さしのぎ位にはお役に立てると思いますよ」


初対面の人間に部屋を勧められれば、それがたとえ同性であっても戸惑うだろう。
えっと、でも。そんな歯切れの悪い言葉が繰り返され、申し訳なさそうに眉が下げられた。


「……ご迷惑ではないでしょうか?」
「迷惑でしたら、こんなことは言いません。それに、ちょうどロフト部分が空いたままでしたから」


持て余していた空間ですから、好きに使って頂いても大丈夫ですよ。

そう告げれば、困ったような雰囲気も幾分和らいでいたようで。
自然と詰まっていた息を吐く。


「こっちだよ」
「あ、はい」


お店を簡単に片付け、シャッターを閉めて裏側に回る。
二階へと続く外階段を昇っていると、消えているはずの室内には電気が灯されていた。
微かに感じられる人の気配。その様子をため息混じりに見上げる。


(……ああ、やっぱり)



諦め混じりに鍵を開ける。

ドアを開いたと同時に鼻腔をくすぐる、柔らかなアルコールの匂い。
それから、何人もの声が混じる楽しそうな電子音。

テレビの画面を淡く映り込ませた栗色の髪が、さらりと揺れて。












「おっかえりー!フェイトちゃーん!」



お邪魔しとるよー!なんて。
缶ビールを持ち上げながら出迎えられた満面の笑みに、やはりため息を一つ。


「ん?」


私の隣にいた彼女に気づいたのだろう。
だらしなく寝転ばせていた身体を持ち上げ、敷布代わりにしていたタオルをきゅっと噛んで。


「ひ……ひどいわ、フェイトちゃん!私以外の女を連れ込むなんてっ」
「いや、そんな小芝居いらないから」


えー、ひどいー。なんてブーブー文句言っているはやてを他所に、ヒールを脱ぐ。


まったく。今度はどこから忍び込んだというんだろう。ちゃんと鍵の確認しておいたのに。

あーあ。それにしても、今日は一体ビール何本飲んだんだろう?
このままでは、わが家のアルコールは全部はやてに飲みつくされてしまいそうだ。


(あとで請求しておかなきゃ)


頭を痛くし始めた私の隣で、彼女が来たときのまま立ち尽くしていた。
事態が分らず困ったように私とはやてとを見ていた彼女に、ああ、と頷いて。大丈夫だよ、と。手招きする。

来客用に、いそいそと勝手にクッションを用意し始めたはやてを指して。


「一応紹介するね。これははやて。皮肉なことに幼なじみで、時々こうやって勝手に侵入されるの」
「……フェイトちゃん、”これ”呼ばわりはちょっとは酷いんとちゃう?」


こほん、と。咳払いを一つして。

妙に余所行きの声を作ったはやてが、


「初めまして、八神はやてや。はやてって呼んでな?」
「あ、えっと、初めまして。高町なのはです」
「なのはちゃんかー。宜しくなー!」


彼女の自己紹介に、せっかく作った声も崩れている。
それどころか頬まで緩んでるし。

とりあえず飲も飲も!と、冷蔵庫からいつの間にか冷されていた缶チューハイが持ち込まれる。
ここに来ると途端にめんどくさがりなはやてが、自分から動くなんて。珍しい。
手伝おうとしていた彼女を座らせ、上機嫌なのか鼻歌交じりで乾きものの準備までしていた。


(ああ、なるほど。昔からはやては、可愛い子好きだからなぁ)


苦笑を零しながら、手渡された缶チューハイに口をつけた。



もうすっかり深夜を迎えていたけれど、不思議と眠気は起こらなかった。
いつもより言葉数の増えた場でお酒を呑むことは、純粋に楽しい。

どこかほわほわした空気は、お店では味わえないそれだ。
向かいの二人は楽しそうに笑いあっていた。


「なのはちゃん、おかわりいる?」
「あ、ううん。もう大丈夫。ありがとう、はやてちゃん」


(……もう名前で呼んでる)


初対面なはずなのに、昔からの友人のような雰囲気だ。
相変わらずはやてのコミニュティ力には脱帽する。それも、きっと才能のうちなのだろうけれど。

お店を営んでいる身としては、見習いたい限りだ。


(羨ましいな)


それを聞きながら、私はもう一本、缶を手にとった。



なんの話題だったか。

――そうだ。何気なくはやてが話した、好きな人の話だ。


女性だったらある程度話すその話題に、彼女は見て分るほどに震えた。
それを見て、先ほどまでのことを思い出した。


「ねぇ。……何があったのかって。聞いたらダメかな?」
「情けない、話だから」


そう言って笑った彼女は、それでも口を開いてくれた。






なのはには、付き合っていた恋人がいた。同級生だった。
生活は順風満帆で、とても楽しかった。


でも。


もともと忙しい研究室にいたなのはは家に帰れなくなることも多く、
月を重ねるごとに、連絡をとることも減っていって。

それでも、時間をとろうと頑張っていた矢先に。




「昨日、『もう付き合いきれないよ』って。振られちゃいました」




ね、情けない話ですよね。と。なのはが笑った。
どこか諦めたような表情に、なんと答えたら言いか、分らなくて。


「……ええよ、もう。ごめんな?話させて」


そんな私よりも早く。彼女を抱きしめたのは、はやてだった。
慈しむような手が、震えた肩をやさしく撫でて。

包み込まれた温度に、張り詰めたままだったのであろうなのはの表情が崩れた。


「……ぅ、あ……」


堪えるような嗚咽を零し、なのはは泣いて。
それが途切れるまで、ずっと。


(ああ。……痛い、よね)


塞がれそうな胸の内で。
ただ、それを聞くだけしかできなかった。









ロフトから続いていた階段を下りると、心配そうに見上げていたはやてと眼があった。
なるべく音を立てないように、先ほどまで座っていたクッションに腰を掛ける。


「……なのはちゃん、寝たん?」


押さえられた声に頷く。


「うん。よっぽど疲れてたんだね」
「そうやろな」


缶を仰ぎながらはやてが苦笑を零す。
すっかり空になったそれを置いて、ぽつりと呟いた。


「叶っていたはずの恋が全部なくなってしまうんは、いつだって痛いもんや」


呟きのような言葉は、意外なもので。
吃驚して顔を見つめると、なんや、と不機嫌そうに眉が顰められた。


「それって、もしかして体験談?」


私の言葉にはやてが笑う。
そんなまさか。と。


「そんな体験、したことないわ」


フェイトちゃんと同じや。その言葉に、苦笑を零す。
まるで、はやてのそれがうつってしまったようだ。


「まぁ……それでも。あんな表情見れば、知らんでも簡単に想像、つくやろ?」
「そう、だね」


さきほどまでの彼女のことを言っているんだろう。

よっぽど好きやったんやろな。
呟かれた言葉に頷く。


妙にしんみりとしてしまった空気が分り、手に持っていた缶を仰ぐ。
残り少ないそれはすっかり炭酸が抜け、ただ苦さだけが残った。


「さってと。そろそろ帰るわ」


窓を見ると、いつの間にか薄日が差していた。
どうやら大分話し込んでいたらしい。


「送っていかなくて大丈夫?」
「えぇって。そんなん。気っ色悪いわー遠慮しとくわー」


うんざりした様に顔をしかめ、ぶんぶんと虫でも払うように手のひらが振られる。
もう。……せっかく人が心配してるのに。


「気色悪いって……酷いよ、はやて」
「そんなこと言って、今まで一体何人の客が勘違いしたと思うとるん?」


こうやって頂いてるお酒も、その度に助力してる私の迷惑料や。
そう言われてしまえばそれまでで、口を噤むしかない。

そんな私に、からからと笑って。
侵入した窓とは反対の玄関に向かった。

靴を履いて、ああ、そうだ、と。


「フェイトちゃん。私が言うのも何やけど、もしなのはちゃんが望んだら、少し置いたってや」
「言われなくても、元からそのつもりだよ」


安心したように、笑う。
そうやな、って。頷いて。嬉しそうに瞳が細められた。


「人嫌いだったフェイトちゃんが自分で家まで連れてくるの、初めてやもんなぁ」


閉じられたドアを見つめて、はたと思った。
ああ、確かに。そうかもしれないな、と。






スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

WEB拍手
感想やリクエストなど頂けたら嬉しいですw  返信不要の方は頭に×をお願いします
プロフィール

汐薙

Author:汐薙
初めまして、汐薙と申します。
魔法少女リリカルなのはで活動中。

主な取り扱いカップリングは
フェイト×なのは
はやて×なのは です。

リンクフリーですので、貼るも剥がすもご自由にどうぞw
一報を頂けると管理人が喜びますw

【ご注意下さい】
当サイトにて掲載されているイラスト
または、テキストの無断転載・使用は禁止とさせて頂いております

カレンダー
08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
カテゴリー
メールフォーム
何かありましたらどうぞ。

名前:
メール:
件名:
本文:

捕捉サイト様
イラストサイト様
SSサイト様
お世話になります
最近のコメント
FC2カウンター
その他
RSSフィード
By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。