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Fuzzy Navel  1話



「すごい……綺麗」

空気の入れ替えにと開け放ったドアから、すっかり陽の落ちた空が覗く。

円く弧を描いた月の光に混じって満天の星がきらきらと輝き、
ぐっと手を伸ばせば一つ零れ落ちてくるのではないかと思った。


「マスター、さむいよー!」


いつの間にか浮かんだ愁傷な思いに苦笑を零す。


「ああ、ごめんね?」


締めようとすると、こちらに向かってくる人影が見えた。女性だ。
腰元まで伸びた亜麻色の髪はしっかりと手入れされているのか、とても綺麗だと思った。
俯きがちで表情はよく読み取れなかったけれど、雰囲気でわかる。

ああ、きっとモテるんだろうなぁ。

なんて下世話なことを考えてしまうのは、多くのお客さんを見ているサガかもしれない。
でも、とても綺麗な子だった。同い年か、私よりも少し下だろうか。


「あの、」
「え、あ、はい」


戸惑いがちに、声がかけられて。


「あの、営業していますか?」
「ええ。どうぞ?」


にっこりと笑うと、彼女は俯いたまま申し訳なさそうにドアをくぐった。
通り過ぎた瞬間、ふんわりと柔らかな香りが鼻腔を擽る。


(いい匂い……)



それは、甘い果実のようだった。





【Fuzzy Navel 1話】



そもそもお店を始めるきっかけとなったのは、趣味が高じてだった。


私はお酒が好きだった。

呑むことが、ではなくて。その場の雰囲気……っていえばいいのかな。
よく、飲むことは出来ないけど飲み会の雰囲気が好き、という子は多い。

私もどちらかといえばその手の人間だ。

けれど一応女性の身、1人で居酒屋に入るには少々心もとない。
かといって友達を誘おうにも、予定がつかない事には好きに行くこともできない。


『それなら、いっそお店を開けばいいんやない?』


そう言ってからから笑う親友の言葉に背を押され、去年の夏、バーを開いた。

テーブルはカウンターだけ。
六人座ればもう満席になってしまうほどの小さな店なのに、不思議とお客さんの波は途切れずにここまで来れた。

どうやら、私のように思っていた女性は多かったらしい。
ここが出来てありがたいよと何度か話を聞いたこともあった。


ほんのりと漂うアルコールの香り。
テーブルに反射した淡い光に眼を細めると、真向かいに座っていた子が笑う。


「アンタ、また雰囲気酔いしたの?」


実は、と。頷くとさらに笑みが深くなる。


マスターなのに、お酒に弱いなんて珍しいね?

そうからかわれる事があるくらい、体質的には弱い。
1,2杯くらいなら大丈夫だけれど、それ以上飲んだら次の日が大変なくらいだ。



それでもバーを開こうと決心したのは、やっぱりたまらなく好きだからなんだろう。


注文を受け、背にしていたリキュールボトルの中からお目当てのものを取って。
氷を砕いていく。

シャキシャキと軽い音が木霊し始めると、急におしゃべりが止み始めた。
向けられる視線に、僅かながら手が震える。

なんでも言い訳ではない。
単に混ぜればいいという訳でもない。

たまにかけられる声に相槌を返しながらも、指先だけは慎重に。
例え何万回繰り返した動作でも、この一瞬だけはいつも緊張する。

カクテルは、味覚だけではなく視覚でも十分に楽しむことが出来るから。
適当に作ってしまえば、それだけ適当なものだけしか出来上がらない。

受け売りだけど、今ではそれが骨身に染みてよくわかる。
出される方だって、そうだろう。


「はい、どうぞ?」
「んー。さっすがフェイトさん!相変わらず美味しいです!」


ありがとう。にっこりと笑みを返して。

ふと、視線を上げると。


「……?」


グラスを持ちながら楽しそうにおしゃべりに花を咲かす子達の姿の合間。
だんだんと皮のくたびれ始めた椅子に、力なく体重を預けるようにして座る姿。


(あの子だ)


1人で飲みに来る子は珍しくないけれど、初めから元気がなかった。
相変わらず俯き加減で、何かを待っているのかテーブルに置かれた携帯電話ばかりをみつめている。


(……何かあったのかな?)


それとも酔いが回り過ぎたのだろうかと心配にはなるけれど、手元にはグラスが一つしかない。
半分ほど残った、カルーアミルク。初めにお願いされたカクテルだ。

時間が経ちすぎたせいか、氷が解けて層になっていた。






どうしよう。

さっきからぐるぐると珍しく悩んでいる。
それでも放って置くことは出来ず、思い切って声をかけてみることにした。


「……どうかしましたか?」
「え、あっ……!」


私の声かけに、はっと顔を上げて。
すっかり人がいなくなった店内に気づいたのか、慌てて椅子が引かれた。

泣いていたのだろうか。
ごしごしと勢いよく袖口で目元が拭われて。


「……ッ」


見上げられた瞳に、思わず息が止まる。
亜麻色の髪の間だから覗いたそれは。夜明け前を思わせる、とても綺麗な蒼だった。


「すみません、こんな遅くまで……!」
「あ、い、いえいえ、大丈夫ですよ」


やはり泣いていたのだろう。目元が赤くなり熱を持っているようだった。


(一体、いつから?)


ここにいる前も、ずいぶんと涙を流したんだろう。
その痛ましさに思わず眉を顰める。

何があったんだろう。
こんなにも綺麗な人なのに。


「……こちら、もうお下げ致しましょう」

私の言葉に、本当に申し訳なさそうに頷かれて。
……すみません、せっかく作っていただいたのに……、と。頭が下げられた。


「これしか、種類を知らなくて。……でも、私にはどうも合わないみたいでした」
「…………そう、ですか」


ぐっと詰まった胸は、きっと。
その気持ちが分らないでも。目の前のこの子の痛みが分るから。


「私も、甘いの、好きなはずだったのになぁ……」


ぎこちなく。
初めて逢う私でも、それが分る笑顔だった。


古いグラスを下げ、どうしようかと逡巡した手でリキュールボトルを取る。
蓋を開けると、ほんのりピーチの匂いが辺りを包み込んだ。

グラスに注いで、マドラーでかき混ぜればオレンジ色の液体がゆらゆらと揺れた。
不思議そうに見つめている彼女に、それを手渡す。


「それなら、口直しにこちらはいかがでしょう?」
「え、あの……」


私のおごりです。よかったら。
控えめに告げると、戸惑いながらも彼女は口をつけた。


「……おいしいです」
「それはよかったです」


感嘆の声と和らいだ表情に、ほっと胸を撫で下ろす。
カクテルが美味しくないものだと思い、いやな思いをして欲しくなかった。
それに何より、1人きりで泣かないで欲しかった。


「ありがとうございます、えっと、マスター?」


言い慣れないんだろう、恐る恐る告げられた言葉が可愛くて思わず笑みが零れる。
そんな私に自分がまずいことを言ったと思ったのか、恥ずかしそうに頬が染まった。

「名前でいいですよ。私は、フェイトといいます」
「あ、えっと、私はなのはです。高町なのは」


名乗らなくてもよかったのに、私だけでは悪いと思ったのか名前を教えてくれた。
それもフルネームで。


「ありがとう、フェイトさん」
「いえいえ、そんな」

向けられた笑顔に顔の熱が爆ぜたようで、慌てて手を振った。


(落ち着け。落ち着け)


どうしよう。こんなの、初めてだ。


グラスを持つ白くて細長い指が、綺麗で。
他のお客さんで見慣れているはずなのに、妙にどきりとさせられた内心に思考が混乱したけれど。


「それで君に笑顔が戻るなら、喜んで」


笑って答える。


「お上手なんですね。……でも、ありがとうございます」
「いえ、……そんな」



でも。


嬉しそうに返された笑顔よりも、そこについた指輪を見つけて、震えた心は。
そう。きっと、多分。酔っているせいだからだ、と思うことにした。




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Author:汐薙
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主な取り扱いカップリングは
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