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風花 ~1話~


長編パラレル 第一話になります。




大丈夫!という方のみ、続きからどうぞ↓






それは。
幼い日に焼け付いたままの記憶。


『忘れんから、……絶対に』


――嘘だと思った。
だって、そしたらきっと……私はここにいるはずがない。

『ずっとずっと。……だから、』

彼女がいなくては生きていけないのかも知れないと、あんなにも強く思っていたのに。
自分の半身と言っても過言ではなかった彼女を失ってもまだ、私はこの世界に生きている。
我ながら薄情なものだ、と。自嘲交じりの乾いた笑いが溢れた。

『だから……、』

けれどやはり思ったとおりに、全てを忘れてしまえるはずなどなくて。
彼女がいた記憶は確かに、今もこうして引きちぎられるような痛みと共に胸の中に在る。

それなのに。

なんの未練か、私はこうして”ここ”にしがみ付いたままだ。


「…………、」


瞼を閉じる。

仄暗いそこに移りこむ彼女はどこかぼんやりとした輪郭だけを遺し、泣くように笑っていた。
それは分かるのに、どんなに目を凝らしてもその表情は読み取ることすら出来ない。

――ああ、どうしてこんな大事なことばかりを忘れてしまうんだろう?

全てを持っていくと言って笑った彼女の言う通りになったのかは分からないけれど、
忘れまいとしまいこむ度に、しまい込んだことすら、大切だったことすらを忘れてしまう。

せめて彼女の名前だけは忘れないように、口の中で何度も何度も呟いた。

「………、」


無駄だと知りながら。


何度名前を呼んでも逢うことはできないと識ったのは、いつの頃からだったろう。
彼女の名前を呼ぶのは誰の為だと考え出したのは、いつの頃からだったろう。


名前を呼ぶ度に、嬉しそうに微笑んでくれた彼女。

自身の世界が赤く染まるその瞬間ですら、必死で隠し続けていた彼女の真実。
それを知ったのは、いつだったろう。


世界は決して綺麗なものではないと識った、今でも。
彼女は私にとって、とても大切な人だった。

大好きな、姉みたいな人で。


――そして、


「…………、」


泣きたくても涙がでなかった。
泣き方なんて、とっくの昔に忘れてしまった。


目を開く。

一面に広がる銀世界。


前を見据えたままの眼を潰すかのごとく吹き荒ぶ氷雪は、今だその勢いを衰えることを知らなかった。
まっすぐに手を伸ばす。その手はただ空のみを切り、何も捕まえることなど出来ない。
この掌に自ら触れる雪片でさえ、それを確かめることなくすぐに形を失っていくんだ。

開いたままの掌は、次第に氷雪に塗れ温度を失った。
諦めて硬く握り締めたその手は、ついに己の体温さえも掴むことが出来なくなって。

視線を落せば、もうすでに誰の物でもなくなった空のカートリッジが無造作にいくつも転がっていた。
ついほんの前にはここにはなかったであろうそれを、指先で摘む。
じんわり、と。冷えた温度が皮膚に染み込んだ。

鈍く光を弾くそれに映り込む私の表情は、こんな場所では似合わないであろうそれだった。

ああ、これは誰かの幸せを奪ったんだろうか。

――そんなことを考え、思わず声を上げて泣き出したくなった。
泣くのを堪えて少し身体を動かせば、金属同士が擦れあう甲高い音が耳元を掠める。

足元には、溜まりを作った赤。それに映り込むようにして、
自身の腰元からは鈍い金色がいくつも連なり、帯状に垂れ下がっている。

ああ――私だって、持っていた。
幸せを砕くことしか出来ない、弾丸を。

私がいなかったら、彼女は幸せになれたんだろうか?


「……ちゃん、……逢いた、……っ」

切れた喉で声を出す。


『………、……?』


ふいに。彼女の顔を、声を思い出した。

優しい瞳は、嬉しそうに細められて。
ゆっくりと、唇が開かれて。


「『――ごめんなさい』」



彼女と私の声が、重なった。






【~壱~】




遠い昔のように思い出す。

魔法を知ったあの頃の私は、純粋にこの世界を守りたくて力を振るっていたことを。
ただ誰かの幸せを願って。――それだけに一生懸命だったことを。

それが間違いだと気づいたのは、一体いつからだったろう?


赤に塗れた腕から伝う温度がぽたりと落ち、足元の白を溶かした。
もう数え切れない程に経験した戦場でも、降る雪はそんなこと関係なく痛い程に綺麗だった。

……こんな雪の日は、嫌でも思い出す。



きっと、彼女を失ったあの時からだ。


【……西部制圧!】


ノイズ交じりの思念通話を片隅で聞きながら、歩を進める。

雲の合間から見える空は、紫がかった青をしていた。
綺麗だった。生まれて初めて見るような、ひどく澄んだ色合いだった。

幾重にも染め上げられた魔力光などに屈せず、色鮮やかに映えて。
昇りかかった太陽は、廃墟と化した街並みを少しずつ照らし始めている。

まるで己が愛した街並みの、その惨劇を悼むように、見せないように。
辺り一体は色濃く影で覆われていた。

――戦場という場に似合わず、思わず息を呑んで感傷に浸る。


夜明けの空がこんなにも綺麗だというのならば、
――ここの青空は、一体どれ程に綺麗だったんだろう?

見たくても、私には知ることが出来なかった。



戦況は、初めから圧倒的にこちらが有利だった。

他国にもあれほどまでに恐れられていた魔道兵士は、寝首をかかれたとあってかまるで恐れるに足りず、
日没とともに足を踏み入れたその地は、ほんの何時間かでほぼ壊滅状態に追いやられた。

今まで歯牙にもかけていなかったこの国を制圧しようと言い出したのは、強欲な国王。
私情で何度か会わざるを得なかったが、その度にその鼻っ柱をへし折りたい気持ちでいっぱいだった。
……とにかく力が全てと考え、自身の利潤にしか気を配らない、王とはいえない王だった。


「……了解」


手短に告げ、半ば強制的に回線を断ち切る。
それが正しくないことだと頭では分かっていても、苦々しい想いを優先させてしまう。
そんな自分はまだ兵士としては未熟だと思いながら、けれど一方でそれをひどく安堵していた。

空を見上げる。

先ほどまでとは一変して雲で覆われてしまったそこは、埋め尽くさんばかりの魔力光が溢れていた。

雪が降り空気は綺麗に澄んでいるはずなのに、立ち込めた硝煙でのせいで息を吐くことすら苦しい。
足を進ませる度に、溶けかかった雪を踏みしめる、じゃく、という音が聞こえてくる。

静かな世界に響く、いくつもの足音。
何人もの足跡が、降り積もった綺麗な白を汚していく。


「やはり八神隊長は凄いですね!」


その合間、弾むような、嬉しそうな声が聴こえた。
その声に少しだけ首を傾げると、私よりもやや若い兵士が目を輝かせ辺りを見回していた。

目の前に広がるそれは。
広範囲に渡って抉られた大地。

放った手が震える。
意識的に人がいないところを狙うくらいしか、抵抗する術がなかった。


「……はは。」


乾いた笑いが零れ落ちる。
ああ、彼にとっては、”これ”が凄いということなのか。

手に握り締めていたデバイスを待機状態へと戻し、深く息を吐く。
灼け焦げた空気が肺を焼き、心を灼いた。

雪の日は、苦手だった。


『……いで、……下さい、…………ド』


掠れた声と。優しい瞳と。
伸ばされた手と、届かなかった手と。

冷たい瞳と、言葉と、笑い声。


『……いよ、……ぶ、……だか、…………、っ!』


ノイズ交じりの声と、思い出。
赤と紅。――アカがセカイを覆いつくす。

私の全ては”あの日”に全部置いてきたはずなのに。


なのにどうしてか、皮肉にもこの力だけは変わらずに私に遺されていて。
……向ける矛先の亡くなったそれは、戦う為だけになってしまった。

誰かを守りたくて。――そう願って。
例えそれが、回りまわって大切な彼女を奪った者を守ることになっても。

けれど。


「……なぁ、…………ス。これで、……本当に、」


私の後ろでは、引き連れた兵士達が立ちつくし、周りに人がいないか必死に探しているのが気配で感じた。
捕虜を見つけるためだ。


「……」


やりようのない怒りと悲しみがこみ上げてくるのを押さえる。
それがここでの”普通”なんだと改めて思い知らされ、何度目になるか分からない落胆を感じた。
怒鳴りつけたくなる言葉を必死に喉の奥で飲み込み、自身の舌をきつくかみ締める。

私が言う資格なんて、何もないのに。
こうして考えてしまう私が可笑しいのか、彼らがおかしいのか。


ため息と共に再度吐き出した呼気は凍り、跡形もなく消えていく。
瞼を開くと、目の前には先程と何ら変わらず、既に瓦礫と化してしまった民家。

視界を裂くように横たわる大きな梁。そこに付けられた、いくつもの背比べの傷。
指で触れてみる。ほんの少し湿った、凸凹とした木の感触。そのままそっとなぞってみると、
まるでそれを阻むように、ささくれ立った棘が皮膚へと入り込んで小さな傷を作った。

つま先で押し込むと、鋭い痛みと共に溢れ出るほんの少しの赤が滲む。

ああ、嫌われたものだ。なんて。
苦笑を零しながら立ち上がる。踵を返そうとしたところで、ふと視界の端に動くものを捉えた。
なんだろうと不思議に思い歩を進め、――そして。


思わず、息を呑んだ。



そこにいたのは、年のころ四つか五つ程の幼い女の子だった。

跡形を残していない廃屋の片隅で、その子は瓦礫に囲まれて、じっと座り込んでいる。
長い間そこに居たのだろうか? 肩などに雪が積もり、露出した肌は冷め身体を震わせていた。

少しだけ近づいてみる。

二つに結わかれた髪の毛は少しだけ乱れ、体温によって解かされた雪が再度凍りついたのか、
毛先には少しだけ氷塊が張り付いているのが見える。

その子は今だ俯いて、膝に深く顔を埋めていた。


「…………っ、」


ただ立ち尽くす。
泣きたくて。でも、泣く資格なんてなくて。

崩れ落ちそうな体重がかかり、ぱき、と足元の木材が軋む。
その音に気づいたのか、彼女の華奢な肩が少しだけ跳ね上がった。

ゆっくりと、顔が力なくこちらへと向けられて。
見えたのは、その空を映しこんだように綺麗な蒼。

敵国の兵士、対峙する自分。
そんな状況なのに、彼女は怯えたり泣くことすらしなくて。

ただゆっくりと。その蒼が、細められて。
 ――どうしてだか、胸が締め付けられた。

  
「……隊長?」

いつまで経っても戻らない私を心配してか、兵士の一人がこちらへと来て。
……彼女を見て、瞬間。

ほんの少し、顔を歪めたのが分かって。



背筋が、ざらり、と。凍りつくのを感じた。


「――っ!」


どうしてそうしたのかは分からない。けれど。
私は反射的に彼女の手を引き、静止の声を振り切って空へと駆け上がっていた。
瞬時につながれる通信モニターを全て強制的に断って、とにかく出せる限りのスピードで。

一刻も早く遠く、遠くへと。


風の抵抗を頬に受けながら、ふと思った。
――一体何をしているんだろう、私は。と。

こんなのは、完全に軍法違反だ。

分かっていても、このまま彼女をそこに置いていくことは嫌だった。
どうにもならない、彼女にとって私が忌むべき存在であるということも全て、分かっていた。

けれど理屈じゃなくて。
嫌だった。

だって、彼女は――だから。

もうこんなのは嫌だった。たくさんだった。
私が憎いというのなら、殺してくれたって構わない。

だから。

彼女を抱える腕は返り血に染まり、次第に彼女の衣類をじんわりと染めていくのがわかる。
生ぬるかった温度は消えうせ、今はただ彼女の衣服越しに伝わる拙い体温だけを感じていた。






魔法を知ったあの頃の私は、純粋にこの世界を守りたくて力を振るっていた。
何もないからっぽだった私にも何かできることを知って、ただ誰かの幸せを願って。

それだけに一生懸命で。

しかしどうだ。
この手はなんだ。

今この手を染め上げている、溢れたこの赤は一体誰のものだった。
問いかけたって、もうそれすらも分からないのに。私はいつだって繰り返す。

汚れた手で、それでも誰かを幸せにしたくて。
諦めたくないと、馬鹿みたいに信じて。


赤く汚れたままのその手では、いつだって。
――触れた相手を染め上げてしまうだけだったのに。


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